それがあまりにおかしくて、僕は笑わずにいられなかった。

 いったい何をやってるんだか。我ながら馬鹿馬鹿しいというか、本当に何をやってるんだろう。何かを誤魔化すように、口元がへらりとぎこちなく笑みを形作る。
 目の前でじっと佇む少女が訝しげに眉を寄せた。慌てて口を引き結ぶ。
 言うべき台詞は既に決まっている。けれどそれを実際に声にするのは躊躇われ過ぎて、結局気まずい沈黙を未だに守っている始末だ。もたもたしている猶予はない。引き返すのなら今のうち、どちらにしろ決断しなければ。どうしよう。どうする。
 ああ、何で僕がこんな目に合わなければならないのか。事は数時間前、いつも通りの昼休みに遡る。中学生らしい馬鹿げた賭けだった。“負けたやつは好きな子に告白する”。
 それなら今目の前にいるこの人のことを僕が好きなのかと言えば、本音、よくわからない。付き合いこそ長いご近所さん、つまりは幼馴染だが。とはいえ異性同士では重ねた年月の分だけ仲がいいなんてことは全くなくて、共に行動することもなければ用事があるときくらいしか会話もしない。幼馴染なんて名前がつく分、よそよそしさが際立って何だか気持ち悪いくらいだ。ただ、平々凡々な僕とは違い、彼女はそこそこ綺麗な容姿でそれなりに人気があるらしく、そんな人と幼馴染というのは少し誇らしくもあった。
 だから多分、僕は彼女を好きではないと思う。好きか嫌いかの二択なら勿論好きの分類に入ってくるのだろうけれど、その好きが恋と振り分けられるものであることは絶対にない。では何故こういう状況になっているのかというと、僕には好きな子がいないのに、かといってそんな言い訳を聞いてもらえるはずもなく、相手が彼女ならみんなも納得するし、もしまずい状況になっても説明すれば解ってもらえるかもという打算のためだ。
「用がないなら帰っていい?」
「や、待っ、言う、言うから!」
 痺れを切らしたのかついに少女が口にする。その声は淡々として冷ややかだ。
 僕はこんなに緊張して熱が上がっているというのに、この温度差が何だか憎らしい。
「……、その」
 僕の願いどおり、彼女はもう少し待ってくれるらしい。もごもごと言葉を濁す僕に沈黙を返す。
 よく考えれば、目的は"告白する"という部分であって、彼女がいい返事をくれるわけがないのだから、さっさと言ってしまえばそれで丸く収まるのではないだろうか。ばっさり切り捨てられてしまえば、僕が情けないだけで、任務は達成できるし彼女も傷つかないし事がばれることもない。
「あのな」
 とはいえ緊張するのは仕方のないことであって、僕は、覚悟を決めて深呼吸を一つ。
「お前のことが、好きなん、だ、けど」
 声が尻すぼみになってしまったのは情けないけど聞こえたはずだから問題ない。心臓がこれでもかとどくどくと脈打つ。顔を上げられないまま、相手が何か言うのを待った。
 けれど静寂が続くばかりで一向に何の音沙汰もない。ちらりと顔を上げると、何とも言えない表情が見えた。怒っているようにも馬鹿にしているようにも見えるが、少なくともそこに照れは微塵もなく、嬉しそうな様子にはどう頑張っても見えない。

 ――あれ、これもしかして何か地雷踏んでる?

 嫌な予感に、再び引きつるように顔が笑った。

何もかもが気まずくては笑った。