「何か出がらしのお茶みたい」

紅茶を一口、飲んで溜息混じりに言うと
そういえば横にいたそれを淹れた本人が顔を顰めた。

「この紅茶で不服なら、いったいどんなお茶で納得するんだ?」

出がらしの葉なんて使って無いぞ、と言いつつ自分も一口飲み、
ほら、美味いじゃないかと自画自賛する。

「え?」
「え」
「あ……ああ、いや、そうじゃないよ」

自分としてはただの独り言のつもりで呟いた言葉を
どうやら彼は自分が考えていたのとは違う意味にとったのだと、
理解するのに少しの時間を要した。
だから慌てて否定する。

「君の淹れてくれたお茶は美味しいよ」

そう言うと、じゃァどういう意味だと言いたげに、
眉を寄せていかにも不可解だという顔をする。

「うーん、そうじゃなくてこの時間がね、何かそんな感じだなッて」

うまく言い表せないのだけれど。

彼は暫く考えた末。

「……内容が薄いってこと?」
「そうそう、そんな感じ」

麗らかな午後、特に課題はなく特にやりたいこともなく、
だから何気なしに本を読んでいたら、
突然やってきたこの男が好い天気なのに勿体無いと言い張り、
お茶を淹れてやるからどうせなら庭でと騒ぎたて
強引に腕を引っ張った。

だから日差しの暖かな庭で読書などしているのだ。

「読書は有意義じゃないのかい?」
「うん、まァ、そう言えばそうなんだろうけど」

やっぱり溜息混じりに答える。

「でも別に、欲求の元に読んでいるわけでもないしなァ。何か物足りない」
「ふーん……」

彼は解ったのか解っていないのか
――まァ自分も巧く話せていないから解らなくていいのだけれど
無表情で何げにふゥと声を漏らしただけだった。

会話が途切れたので視線を手元に戻すと、
それを遮るようににゅゥと手が伸びてきた。

「でもほら、ストレートの紅茶じゃなくてミルクティーじゃん?」

再び彼に視線を向けると、彼はにっこり笑ってやけに明るい声で言う。

「は?」
「出がらしのお茶でも、ミルクと砂糖をたっぷり入れたらちょっと贅沢な感じじゃない?」
「うーん、まァねェ……」

あまり美味しそうではないけれど――
などと考えつつ彼の言葉を一応肯定すると、
彼はその笑顔をさらに綻ばせた。

「ね。ほら、ミルクと砂糖」

ミルクでこちらを、砂糖で彼自身を指差す。

「君は自分一人で居る気だからいけないのだ。
 僕と一緒だということを重々思い知りなさい」

美味しいお茶と僕が在って不服なことがあるものか、と自信に満ちた表情で言う。

今の状態を表現するなら、二人で読書、と言えるのだろうけれど、
躯を寄せ合って一つの本を読んでいるのではなく、
確かに、彼と一緒に過ごしている貴重な時間だ、ということを
すっかり失念していたかもしれない。

「そういうものかね」
「そういうものだとも」

彼はいつでも自信満々で、
そういう彼を見るのが自分はけっこう好きだったりする。
思わず頬が緩むと彼は満足げに微笑んだ。

「君は色が白いからねェ、ミルクという表現はぴったりかもしれないな」

本の上に伸びていた手が少し居場所を直して、自分のこの手の上に落ち着く。
大きな彼の手は自分の手をすっぽり覆ってしまうくらいで、
言いながら長い指がすいと手の甲を撫ぜた。

「そうかな」

短く息を吐いて平然を装いながら相槌を打つ。

「ああでも、別に逆でも構わないね。君は甘くて美味しそうだから」

彼の戯言は止まる気配が無い。

「……そうかな」
「そうだとも。君ほど高級な砂糖菓子など、そうそうお目にかかれないね」

金を積めば良いというものではないから余計に厄介だ、と笑いながら、
だからそれを手に入れた僕は世界一の幸せものだ、と
やはり自信満々で言い切るのだ。

「――君の方が余程、甘いと思うよ」

一瞬言葉を詰まらせながらも何とかそれだけを言う。
何でそうそう甘い言葉をさらりと吐けるのか。
頬が熱いのは日差しの所為ではなく。

「じゃァ食べてみるかい?」
「……いや、いい」
そんなに甘いものを食べてしまったらきっと、自分はどうにかなってしまう――
――既に手遅れかもしれないけれど。

極上に甘い微笑をたたえたまま言う男の、自分に触れた手を払えないのは――。

確かに、ミルクティーならいいかもしれない。

紅茶(それは世界で一番甘くしたもの)

ふと思いついたネタで妄想を膨らませてみた
大学時代で新しいほう