『空と星座盤』
真っ黒な空に白い光ちらほら
それを君と二人で見上げる
君は星座の名前とその由来と物語を話して聞かせて
でも僕は君の心地好い声にうとうととして
いつの間にか寝てしまっていたけど
優しい君はきっと微笑んで許してくれるのだろう
だって優しい声で「おやすみ」って
寄りかかった僕の頭を撫でてくれたでしょう?
『ビンに封印されたもの』
透明の小さなビン 中身は見えない
何も入っていないのか、それとも見えない何かが入っているのか
コルクの蓋にはしっかり封がしてある
この中にはいったい何が入っているんだろう
開けてはいけないと言われると開けてみたくなるじゃないか
無邪気な好奇心は破滅をもたらすだろうか
でもこの衝動に耐えるほどの理由を俺は今持っていない
ならば思うままに開けてしまえばいいじゃないか

あ~、開けてみたいなぁ~
「何ぼさっとしてる。さっさと片付けろ」
とりあえず持ち主に確認でも
「ねー師匠ー、このビンって何が入ってんスか?」
「何を馬鹿なことを。見ての通り空(から)だ」

――ま、いろいろ考えんのも楽しいってね
『消えない事実』
たとえ世界中の誰一人として認識出来なくても
この事実を僕が憶えている限り、それが僕にとって唯一の答

巻き戻った時間は何事もなくもう一度歩みを進め
一度は過ぎた未来を新しく塗りつぶしていく
それは僕が望んだこと
すべてを無かったことにして
君と過ごした時間も思いも何もかも無かったことにして

それで君が生き続ける未来が在るのなら

世界中の誰一人として認識出来なくても構わない
世界から消え去った事実 それは
僕だけが知っている、僕だけの確かな答
『魔女に弟子入り』★
「お願いします、師匠!」
「誰が師匠だ!邪魔するな目障りだ消えろ!」
ある日、どこで噂を聞きつけたのか弟子にしてくれという男が訪ねて来た
四枚羽(よんまいばね)の魔女”と冠される俺の力は世界で指折りだけれど
「弟子入りなら他の魔女にしろ!」
かなりの人嫌いな俺は人の寄り付かない魔物の森の奥に住んでいるのに
何故わざわざその俺を選んで弟子入り志願をしてくるんだ!
力のある魔女は俺一人ではないのだから
人好きで心優しく穏やかな“優花(やさはな)の魔女”とか
不器用だけど面倒見のいい“陽剣(ひつるぎ)の魔女”とか
「俺はッ、貴方じゃないと駄目なんです!」
「いい加減にしろ! 本当に殺すぞお前ッ」
人一人くらい、こうやって怒鳴るより余程簡単に消してしまえる
こんなことに時間を費やすなんて無駄ほんの一瞬だってしたくないのに
もう何日も潰されて我慢も限界だ
男は一瞬戸惑ったものの、今にも魔法を使いそうな俺を力強い目で真っ直ぐ見た
決意した様子に最後の言葉を聞いてやろうと――
「俺は、貴方が好きなんです!」
「――は?!」
「だから側に置いてください!絶対役に立ちますから!!」

俺の思考回路は見事にショートした
そんなこと言われて俺にどうしろっていうんだ!?!?!?
『忠実な日記帳』
自動手記する日記帳を買ってみた
でもこれがまた嫌なやつで後悔した
何故って、そりゃ全部事実だけど
残しておきたくない失態とか恥とか
それはもう何の遠慮もなくズバッと事実のまま書いてくれちゃうからだ
例えば友達と喧嘩したとか
原因は俺のつい一言だとか
売り言葉に買い言葉で、両方引っ込みが付かなくなって
殴り合いまで発展したとか
どことどこを殴って殴られたとか
ヤツは泣いてたとか――

――うん、謝りに行ってこよ。
『竜の鱗、鳥の羽』★
深い深い森の奥には竜が棲んでいる
それは永久に大地を守る神竜
その眼は世界を見通し
その声は安らぎを与える
その血は延命をもたらし
その鱗はどんな傷も病も完治させると云われる
――それは空に伝わる古の物語

僕はその古の物語に賭ける
だって竜の鱗が必要なんだ
大切なひとを助けるために
大地に降りるのは怖くて不安だけど
少しでも可能性があるなら――

そうして幼い小鳥がひとり、空の世界を飛び出して
新たな物語が紡がれる
『宝の地図の地図』
『天から降ってきたもの』
古の天が涙を零して自らの穢れを清めた
其の穢れは地上に落ちて溜まった
穢れは少しずつ確実に生きとし生けるもの総てを穢して
――絶えるのは時間の問題だろう
打開策は無く逃れる術は無く救いは訪れず
死に逝く我らは只天を呪うのみ
そうして穢された天は再び涙を零し
そうして滅びは近くなる
死の連鎖はもう止まらない
天ももう清められない程に穢れたのだから
何もかも道連れにして
そうして総てが終わって逝くのだ
『記憶の断片』
記憶を無くしてもう数年経ったけれど
俺はまだ生きている
確かに不便や苦労もあったけど
今となってはこんなものかというあっさりとしたものしかない
ただ時折ひどく虚しくて胸が軋むのだ
無くしても変わらずに生きていけることが
無くしたものがどれだけ大きかったのか判断することも出来ないことが
無くしたものを取り戻す術がないことが
それでもしょうがないと、思ってしまえることが

微かに思い浮かぶ君の姿に涙が出る
『空中の遺跡』