『空高く、そびえる街並み』
空を貫くように塔が伸びる
空を埋め尽くすように幾つもの塔が伸びる
頂上の見えないそれは、地を這いつくばって生きている俺達を嗤っているようだ
「ふん――見下ろしてられるのも今のうちだ」
憎しみを籠めて呟く
そんな呪いが何の効果も無いことを知っている
「そろそろだぞ」
「ああ、すぐ行く」
道は自分で切り開く
この手で、この足で、この目で
くだらないすべて何もかもぶち壊して
そして作られる世界はきっと限りなく綺麗だと――
『命を賭して向かう』
“命を賭けて”なんて、これ以上ないくらい阿呆らしいと思ってた
それがどうだ
今まさにそれをしている俺なんて、似合わないにも程があるぜ
「――ま、いっけどね」
理論で考えてそうした訳じゃなく、まさに本能のレベルでそれを望んだから
いつの間にそんな人間になったんだか
赤の他人の為に、取り返しの付かないたった一つの自分の命を投げ出すなんて
救いようもなく愚かな偽善の行為
それでも
「こんな最期も悪くないか――」
なんてくだらないことを思ってしまえるのだから我ながら呆れる
――お前は俺を想って泣いてくれるだろう
何だかそう確信がある、ただそれだけで本当に満たされる気がするんだ

震える手で剣を握り締めて
かちかちと音を鳴らす歯をぎゅぅと噛み締めて
口元にはいつもの不敵な笑みを浮かべよう
「――この命に賭けて、この命消えるまで」

「神子に仕える者として、誰一人此処を通しはしない!!」
『咲き誇る花たちの舞』
ひらりひらり揺れて華やかに
くるりくるり回って軽やかに
しゃらりしゃらり鳴らして清らかに
煌きの音楽に合わせて
彩りは涼やかソプラノ 穏やかアルト
そして飛び切りの笑顔
魅惑の瞳は陽の下で閃き
すらり伸びた手足で貴方を誘う
――咲き誇る私達を見て頂戴
そして最後には割れんばかりの拍手を 是非――
『闇の中、月の下、一人立つ僕は』★
――これが俺の選んだ道。

「何でこんなこと――!」
壊れた入れ物を抱いて叫ぶ少年の、大きな目が憎悪を湛えて俺を睨む。
「何とも思わないのか!?」
俺はその声を凍てついた世界で聞く。
「何でッ――俺達が何をしたって言うんだ!!」
勢いよく舞い上がる炎が月に負けじと妖しく耀く。
そうして影が狂喜して躍る。
独特の空気が満ちている。ああ、闇が呑み込まんとしている。全てを。
「別に、何も」
声は意外にも燃え盛る音に掻き消されずに響いた。
「これが必要だっただけだ。お前の望むものはないよ」
少年は意味が解らないのだろう、ただ顔を歪める。
そんなことは如何でもいいのだ。
もう此処に居る必要はない、と、歩き出して然程しないうちに背に衝撃を受け、
顔を向けると少年が俺の背からよろめくところだった。
光に晒された幼い手は血に濡れている。そしてそれを、呆然と見つめる少年。
くらり、と、視界が揺らいで、ああ、流石に此れは。
「――何に驚いてるの? 他人を傷つけたから?其れとも俺の血が赤いから?」
浮かべた嘲笑は自分に向けたものだけど、
それが解らない彼にとっては至上の恐怖だっただろう。
跳ね上げた顔は、先程までの挑戦的な目がすっかり怯えきっている。
手探りで背に刺さったものを探り当て、その突起を引き抜く。
これは、彼が抱いていた物が向けてきた小刀か。
「良かったね、彼女の刀で一矢報いて。喜んでいるんじゃない?」
「――ッ!」
その言葉で少年の目が再び憎悪に彩られた。
それが、ああ、何て綺麗。
掴みかかって来た彼の拳を捕まえて、そのままこちらに引っぱった。
バランスを崩して反射的に瞑った瞼に唇を落として、
背に回した手で小刀を突き立てる。
小柄な躯はびくん、と跳ねて、
「立ち止まらないと決めたんだ」
その耳元で甘く囁き、力を失くした躯はそのまま血だまりに落ちた。
「まだまだ……」
あの日、決めたのだ。
闇に堕ちた日。
底の無い闇の中、爛々と輝く月の下、一人立つ俺は血みどろの剣を手に。
「ただ走り続けるだけ」
これが俺の、選んだ道。
『真実を知った時』
真実を知った時、君はどんな顔をするだろう
笑って嘘だろうと問うのだろうか
信じられないと縋るのだろうか
目に涙を浮かべて罵倒するのだろうか
それとも素っ気無くその手に握った刃を向けるのだろうか
「俺はお前を陥れるために傍に居たんだ」
そう、この瞬間――
「……知ってたよ、ずっと前から」

真実を知ったあの時、自分はどんな顔をしただろう
『亡くしたものの為に』
どんなに足掻いたって亡くしたものは戻ってこないのに
どんなに後悔したってもう遅いのに
どんなに泣き叫んだって喚いたってこの事実は変わらないのに
世界が戻らないのと同じように、この思いだって消えやしない
何でどうして嫌だ嫌だ厭だ絶対に嫌だ嫌
許さない許さないそんな現実誰が何と言ったって認めない
悔しい悔しい何でどうしてこんなこんな事僕は、僕の所為で
僕にもっと力があれば僕があの時あの瞬間もっと――
どんなに足掻いたって亡くしたものは戻ってこない
どんなに後悔したってもう遅い
どんなに泣き叫んで喚いてもこの世界は戻らない
そんなこと知ってる、理解してる でもだからって
――そんなこと!!
僕はどこまでだって足掻いてやる
それがどんなに愚かなことでも
それがどんなに醜く汚い行為でも
それが誰を陥れようと何を犠牲にしようと
自分が消えて亡くなる最期の最後の一瞬まで
どんな手を使っても必ず君を取り戻す
夢でも幻でも造り物でも偽者でもない本物の君を、絶対に!
『古えの知識、手にして』★
――我、望みし君に問う

君には其の熱意が有るか
君には其の覚悟が有るか
君には其の資格が有るか
君は如何程愚かな選択であるとしても其れを望むか

人は愚かな生き物だ
だから此れは世界の存続に関わる由々しき問題だ
例え其の選択に世界が滅びの道を歩むとしても
君は其れを望むのか

迷い無く肯と云えるならば
会いに来るといい 愚かで愛しい我が子
糸の先端を此処に残そう
正しく読み解(ほど)き其の手中に手繰り寄せるといい
君が我に臨みし時、我は君に応えよう

――我は魔を統べりし最後の王

……其れはもう真実か如何かも解らない古の物語
世界には魔の力が溢れていた
あらゆる物が魔の力を持ち
知識を得た人々は其れを巧みに操る(すべ)を創り出した
だが次第に強くなる其の力は人々を滅びへと歩ませた
其れを諌めんとした当時の偉大なる王は
自らの躯を器とし 世界中の魔の力を己の内に閉じ込め
自らの躯を鍵とし 己ごと封印を施した
そうして王と共に魔の力は世界から消え失せ
そうして次第に其の存在は忘れ去られた
現在となっては其れを確かめる方法はない
だが此れだけは語り続けよう
魔を統べりし最後の王 そして偉大なる時の王
彼の人の名は――
『君と僕、背中合わせで』
痛いのは嫌いだし死ぬのは怖い
そう言ったら馬鹿にされるけど
確かに自分は騎士団員で
でもそれほど熱心なわけではないし
(騎士団にいるのは生活と金と立場の打算であって)
自分の力量だって解ってる
(称えられるほど強くなんてないし別にそれでいい)
皇族が何より尊いなんてまるっきり思わないし
(自分に換えられるほどのものじゃないね!)
国という括りに特別興味もない
(自分の損にならなきゃそれでいいさ)
此れが最期の戦いになるだろうことぐらい誰もが解ってた
本音ならさっさとトンズラしたかったさ
(まぁ一応怪しまれない程度にタイミングを見計らってね)
どいつもこいつも大切なもの持ってさっさと逃げればいいのに
ただ自分の大切なものを
国なんて皇族なんて他人なんてどうでもいいじゃないか
そんなどうでもいいものの為に命を賭けるなんて
しかも、どうせ守りきれないと解りきっているのに
本当、馬鹿馬鹿しいことこの上ない!

――其れなのに未だ此処で剣を振るっているのは

きっと君と背中合わせだからなんだろう
『空駆けるものと共に』
「もーッおーもーいーぃぃ!」
「煩い。黙って飛べ」
「あーのねえぇ、僕はッ、こーゆー使い方、される、もの、じゃないんだよッ!」
「……(無視)」
確かに僕はこの人の使い魔だし
確かに僕は竜の化身で空が飛べるし
でもだからって!
自分よりでかい体格の男と荷物を抱えて飛ぶなんて普通させる?!

――この鬼畜自分勝手我侭王子に惚れちゃったのが運の尽き

「岸を渡ったらイイコトしてやるよ」
「うッ、煩い馬鹿!落とすぞ!」
「へぇ、そんな口利くんだ」
「ううぅ……煩い馬鹿ぁー!!」
「はッ……可愛いやつ」
『偉大な功績を成した暁に』
地位や名誉が欲しかったわけじゃない
財宝も栄光もどうだって良かった
そんなもののために戦ったわけじゃない
人々が生き永らえたって、世界が保たれたって
そんなのちっとも意味がない
だって肝心の君が居ない
守りたかったのは君
守りたかったのは君の居る世界
だからこそ僕はすべてを賭けて――

――すべてを、賭けてしまったからか

偉大な功績を成した暁に
何より必要な君が、居ない