「宅配でーす」
久しぶりに大きな荷物が届いた。両手で何とか抱え上げられるくらいのダンボール。“割れ物注意”と書かれたガムテープでやたらとぐるぐる巻きにされていること以外は特に変わったところもないダンボール。
自宅で気ままにプログラマーなどしている俺は正午過ぎに届いたそれを直接受け取った。丁度昼食を取っていたのだが、そう言えば途中のままほったらかしている。だってそれどころではないのだ。
届いたダンボールを前に、俺は既に二時間も悩んでいた。
何故ならその荷物は、極めて性質の悪い先輩から送られてきた物だったからだ。俺をからかうことを心底楽しんでいる男。いつだって予想の上の上を軽々と行ってくれる最高に厭な人。大学で同じ教授の下についたのを切欠に知り合って、何故か気に入られた俺はことごとく遊ばれ続け、大学を卒業した今もそれは継続中である。
今度はいったい何が起こるんだろう……あああっ、開けたくない!
いっそどこかに捨てて来ようか?
いや、そんなことをしたらどんな恐ろしい報復があるか……!
開けるしかないことは解っているのだ。だったらさっさと済ませてしまえばいいものを、でも開けたくないという拒否反応にどうしても抗えない。
ああでもいい加減開けないと、そろそろ電話がかかってくるかもしれない。それまでに開けておかないとやっぱり恐ろしいことになるだろう。
――大丈夫だ俺! どんなに予想外の物が入っていても驚かない! 慌てない! 反応を返さない! そして電話がくるのを待って平然と、たいしたことなかったですね、と言ってやるのだ!
ダンボールを閉じている部分にカッターナイフを当てて、一度深呼吸。
大丈夫、大丈夫、俺は絶対大丈夫。 何が入っていても驚かないし慌てない。
うう、何が入ってるんだろう……。
うー、えーと、そ、そうだ、もしかして仕事の話じゃないか? この前、もうすぐすごい物を創れそうなんだ、と言っていたし。
……それはそれで多分面倒なんだけれど余程マシだ。
「よし、開けるぞ!」
無理矢理自分を納得させて、独り言で気合を入れて封を切る。
「――――!!」
そこに入っていたのは、
『はーい、もしも――』
「何考えてんですか貴方は!!!!」
受話器に向かって力いっぱい叫ぶと相手は瞬時に状況を理解して平然と問う。
『ああ、うん、驚いた?』
「驚いた? 驚いたって?! 驚くに決まってるだろ!!」
またこの人の思い通りになっていることが心底腹立たしい!
多分俺がそんなことを考えていることすらお見通しで、
『相変わらずいいリアクションするねー』
諸悪の根源はあははと楽しげに笑う。
ああっ、こいつ張り倒したい!!
「宅配で届いたダンボールの中に子供が入ってたら誰だって驚きますよ!!」
そう、蓋を開けたダンボールの中には、衝撃吸収用(?)の綿に埋もれた小さな男の子が、ちょこんと座っていたのだ。
思考停止した俺を大きな目で不思議そうに見上げて、ことりと首を傾げる。
「絶叫しましたとも!当然でしょう!!」
そして即刻、電話に飛びついた。
「てゆーかついに幼児虐待!? 馬鹿ですかっ頭イカレましたか!? 俺開けるのにカッターナイフ使ったのに何かあったらどうするんです!!」
『あはははははははは』
「笑い事じゃない!!」
『ご、ごめん、だって、あはは腹痛いー』
こっ、この人は――!
確かに俺をからかうのに手段は選ばないけど、ここまで非常識だなんて見損なった!!
『――それ、ロボット』
「はあ?!」
『だから、僕が創ったロボットなんだ』
俺が本当に怒っていることを察したのか、ここらが潮時と踏んだのだろうくすくすと笑いながらだけど本題に入ったらしい。
……頭の中で復唱する。到底信じられない内容のその言葉。
僕が創ったロボットなんだ。
「それ本気で言ってるんですよね?」
『勿論』
「ちょっと待ってください」
電話を保留にして受話器を置く。
ダンボールのところに戻ると、少年はダンボールの中に綿と一緒に詰まったまま虚空を眺めていた。俺が横に立つとこちらを見て、やはりことりと首を傾げる。
これがロボット?
手を伸ばしても少年はただこちらを見ているだけだった。髪や肌に触れて感触を確かめる。それから眼球とか口の中とか――ってものすごく怪しくないか、この構図。
「本当にロボットですか?」
保留を解除してもう一度訊ねる。
確かにまともな反応はないけど、どう見てたって人間だ。
『正真正銘。 まぁ僕一人で創ったわけじゃないしね、それぞれの分野の第一人者が集まってさ』
すごいだろー? なんて子供みたいに軽々しく言う。
こんなとてつもなくすごいことを平然と言うのだ。
いつの間にそんな高度な技術が完成したんですこの世界に? ――なんて常識が通用しないことを、残念ながら俺は知っている。不本意だけど短い付き合いではない。そんな信じられないことを、やってみせるのだ、この人は。
だからいつも敵わない。
大きく溜息を吐くとその元凶はまたあははと笑った。
『そんな物分りのいい君が好きさ』
「馬鹿ですか」
『あはははは』
――ああもう、本当に、これだから嫌なんだ――。
「……それで、何で俺に彼を送りつけてきたんです?」
もう一度溜息を吐いて思ったことを尋ねると、
『うん、プログラム組んでもらおうと思ってね』
「……は?」
思わず俺の思考が働くことを拒絶した。
『いや、僕がやる予定だったんだけど、思ったより面倒でさ』
「んな、だ、って、そんなの知ら」
『人間ぽく動くようにプログラム入れといてよ』
「つか俺無関係」
『設計書なんかは底に入ってるから』
「や、まっ、俺受けるなんて言ってな」
『一週間あればいいよね』
「は?! 俺他にも仕事あ――」
『じゃ、よろしく』
「ちょ、先輩!?」
『ツーツーツー』
――嗚呼、無慈悲な電子音。
「う……そだろ」
頭の中が真っ白になる。
などという体験を、この破天荒な先輩に引きずり回されそれはもうかなりの確率で味わっている可哀想な俺の人生。
「嘘だって言ってください!!」
慌てて電話をかけ直しても電子音が鳴るばかりで、
「――っ俺はあんたと違って一般市民なんだー!!」
叫んだところでどうにもならないけれど、叫ばずにはいられない。